菅野寛著「経営の失敗学」(日本経済新聞出版社)は近年重要性が認識されている「失敗学」を経営に絞って記された本である。
「天国に行くのに最も有効な方法は、地獄に行く道を熟知することである」ニッコロ・マキャベリ
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」松浦静山(野村克也?(^O^))
等々失敗にまつわる名言も重視されてきているようである。
本書の骨格も同じく、経営に必勝の法則はないものの、必敗の法則はあるとのスタンスで書かれている。
第一部では「失敗から学ぶ」と題し、
第1章:ビジネスは失敗の山
第2章:ビジネスは本質的に失敗する運命にある
第3章:成功学の幻想
第4章:成功は学べない
第5章:失敗学の有用性
と言った章立てになっている。
第2部では「陥りがちな失敗のパターン」と題し、
第6章:考えるアプローチ、頭の使い方がずれている
第7章:戦略の筋が通っていない
第8章:顧客が求めていない価値を提供してしまう
第9章:定性的なロジックの詰めだけで満足して、定量的な数字の詰めが甘い
第10章:リスクや不確実性に対処しない
第11章:「地雷除去」が行きすぎた結果、戦略が尖っていない
第12章:実行に必要な徹底度が足りない
第13章:実行者の意識・行動を変えていない
終章:失敗する経営から成功する経営へ
と様々な失敗のパターンが提示されている。
こうした失敗パターン(地雷)を避ける事で成功の「確立」を上げよう、と言うのが本書の趣旨である。
経営戦略(事業計画)の立案から実行に至るプロセスは、
①経営理念・ビジョンを鑑みて、
②自社を取巻く外部環境分析を行い(ニーズ・競合の把握等)、
③自社内の内部環境分析を行った上で(強みの把握)、
④全社戦略を決定し、事業戦略や機能別戦略に落とし込み、
⑤売上計画、利益計画等の数値計画を策定し、
⑥アクションプランを決定して実行に移す
⑦予実管理を行い次期経営戦略の立案を行う
といったステップを踏む。
経営戦略の概念図
本書はこうした経営戦略の立案から実行に至る間に潜む失敗パターン(地雷)を
各ステップごとに示されており、非常に参考になる。
第6章、第7章は④の経営戦略立案時における失敗パターンを、
第8章はまさに②の顧客分析時の失敗パターン、
第9章は⑤の戦略の定量化における失敗パターン、
第10章は⑥及び⑦の戦略実行とチェック&軌道修正時の失敗パターン、
第11章は再び④の経営戦略を練る時に陥りやすい失敗、
第12章、第13章は⑥の戦略実行時の失敗パターンが掲げられている。
第12章、第13章で⑥にあたる実行時の失敗パターンを述べる時に、①の経営理念の重要性が力を込めて述べられている点で、
経営理念の大切さを再認識できた。
失敗パターンの概念のみを述べるのではなく、各失敗パターンの実例が豊富なため、
具体性を持って経営の失敗学を学べると共に、経営の読み物としても楽しめる本である。
このように、本書は経営戦略策定に関して一通り学んだあと手に取ると非常に有効なものとなっている。
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